海外に住む刺激的なことのひとつは、カルチャーギャップを間近で感じられること。2年ほどですが前にイギリスに住んでたとき、新しいモノサシが加わって、価値観が広がるのを感じました。そのときの気づきのなかで、日本人のもつ感性のきめ細やかさがあるんですが、それを誇りに思うのと同時に、窮屈な生きづらさもあるよなあと思っていました。
今回紹介する「VISION GLASS NO PROBLEM」の取り組みは、そういう価値基準を考え直すきっかけをくれます。
VISION GLASS って?
VISION GLASS はインドの理化学ガラスメーカーである BOROSIL 社が製造するグラスです。曲線の少ないシンプルな佇まいで、理化学ガラスだけあって直火にも対応するほどの耐熱性。飲み物を入れるのはもちろん、オーブン料理、さらにはフラワーベースや鉛筆立てのように雑貨として使う人もいるほど。
実はこのグラス、インドでは30年以上販売されているロングセラー製品。現在輸入販売元をされている VISION GLASS JP のご夫婦が、2011年に新婚旅行先のインドのカフェで出会ったこのグラスに惚れ込み、2013年から輸入を開始しました。
私が最初に VISION GLASS を見たとき、その堅牢でミニマムな見た目の美しさにも惹かれたのですが NO PROBLEM プロジェクトに興味を持ちました。
NO PROBLEM とは
グラスの製造過程で生まれる、小さなキズや気泡、ゆがみやプリントされるロゴ位置の不備など、なんらかの理由で日本の市場に出せないものを「VISION GLASS NO PROBLEM」と呼んでいる。いわゆるB品といわれるようなものですが、輸入当初はなんと半分以上が検品で外れてしまい、使用するには全然問題ないわけだけど、日本の厳しい品質基準では売り物にならなかったそうです。そこから本土のメーカーと協力して品質改善を繰り返しても、B品率は2、3割までしか下がらなかった。
日々、私たちの目の前に積まれてゆく「VISION GLASS NO PROBLEM」はインドの価値観と日本のそれとの狭間で行き場を失ったグラスであり、その量の多さは狭間の大きさを示しているのです。
―VISION GLASS JP 公式サイトより
インドでは普通に販売され日常的に使われているものが、日本ではB品になってしまう。十分に使えるものを「問題なし!」と受け入れる価値観も必要なんじゃないか。二国間の価値基準の違いに気づいた VISION GLASS JP では、このようなグラスをあえて定価で販売することを決めた。事業開始から2年でおよそ5000個にも及んだ行き場を失っていたグラスもまた、正規品と同じように NO PROBLEM な生活道具であることを伝えています。
2017年に刊行されたタブロイドでは、日本とインドで取材したインタビュー記事を中心に、ものづくりの現場におけるメーカーから企画デザイン会社、卸問屋など、立場の異なるそれぞれの視点から価値観をまとめています。展覧会「NO PROBLEM 展」もおこなっており、2つのメディアを通じてこれまでの成果を伝えてきました。
使い手である消費者と作り手がいっしょになって、今の日本におけるデザインと生活の風通しをよくすることを願って。
―タブロイド「NO PROBLEM」第1号より
昨年 VISION GLASS JP の代表お二人によるトークセッション「NO PROBLEM あなたのものの価値基準とは?」に参加してきました。語られていたなかで個人的には「文化交流」という言葉が印象的だったのですが、たしかに VISION GLASS NO PROBLEM は異国の寛容さに触れる体験だなあと。そして自分が VISION GLASS を好きになったのも、このグラスの情緒に惚れたのかもしれないです。
お求めの方はオンラインショップまたは水曜限定の事務所直営販売で実際にお手にとってみてください!なお、直営販売は不定期開催なので行く前に Facebook をご確認なさったほうがよさそうです。
VISION GLASS JP
所在地:東京都台東区三筋2-14-1 小市ビル2F 地図をみる
営業時間:17:00〜20:00(水曜日のみ)
電話番号:050-3597-6852
Webサイト:http://visionglass.jp/